HIDABITO 035 クオレ2号店 代表 石原ふきみ氏

HIDABITO 035 クオレ2号店 代表 石原ふきみ氏

「この町と人に支えられ、今がある」。理髪店を営む傍ら、朝日町の発展に尽力。

人と町への感謝を原動力に、高齢化の進む小さな町をもり立て続けて


高山の市街地から南東部へ車を走らせること30分。朝日町は、北アルプス連峰を一望する標高1400mの鈴蘭高原の麓にある。「枝垂れ桜の里」として知られ、4月の後半になると朝日町界隈の寺や神社で桜見物が楽しめるが、春以上に賑わいを見せるのは冬場の秋神温泉だろう。夜間にマイナス10℃まで冷え込む山間部の特性を活かした「氷点下の森」は、この町の冬の風物詩。1月〜2月末まで、大小さまざまな氷柱が7色にライトアップされ、訪れる人々を幻想的な世界へと誘う。毎年2月の第2土曜日は地元の有志によって「氷祭り」が開催されるが、そのステージで初期の頃から司会を担っているのが、朝日町で理髪店を営む石原ふきみさんだ。



「私は生まれも育ちも秋神でね。秋神温泉旅館の小林繁さんという方が『氷点下の森』を始められたんですけど、氷祭りを立ち上げる際、地元のことをわかっている人に司会を任せたいと思われたようで、『ふきみ、お前が司会をやってくれんか?』と。小林さんはうちの大事なお客さんの一人ですから、二つ返事で引き受けました。そこから何十年もずっとやらせていただいてね、ありがたいことです。」


紫色にメッシュを入れた前髪と大振りのイヤリングは、石原さんのトレードマーク。長年に渡り、地域の婦人会で功績を残してきた人物と聞いたが、威圧感は一切ない。こぼれる笑顔とユーモアたっぷりのおしゃべりに、場の空気が瞬時に和む。飾らない人柄に、旧知の間柄のような打ち解けた心持ちになる。


「秋神の地域は私が小学校を卒業する年、大野郡朝日村(現高山市朝日町)の中学が統廃合されたんです。入学して驚いたのは、それまで28人ほどで一学級だったのが3クラスになり、全校生徒数は約320人になって。昭和40年代の朝日は活気がありました。

当時は高校進学組は一握りで、就職するのが当たり前で。女の子も手に職をつけておけと、中学卒業後は叔父が床屋をしていた多治見に理容師修行に出ました。ハサミの持ち方一つから厳しく叩き込まれ、まだ15歳ですから辛くてね。夜、布団に入ると泣いていましたよ。」

大卒男子の初任給が26,000円の時代に給料は月2,000円だったが、石原さんは歯を食いしばって理容師資格を取得。18歳でふるさとに戻ると、地元の理髪店で働きながら技術を磨いていった。そんなとき朝日村の村長選挙があり、石原さんは選挙カーのウグイス嬢に抜擢された。



「その選挙カーのドライバーだったのが夫です。建設会社に勤める2歳上のその彼と、ハタチで結婚しました。理髪店の主人が体が弱く、ほどなくお店を託されることになって。お腹が大きくなっても働きました。23歳の3月に長男を産んで、11月には『カットサロン ふきみ(現クオレ2号店)』の看板を上げたんです。」


そこからは無我夢中で働く日々。さいわい、夫も同居する義理の両親も理髪店経営に協力的で、小学校入学前の息子たちの子守は、理髪店のほど近くに住む祖母が買って出てくれた。



「町の人口が今より3倍ほどで、理容師は私だけでしたから、毎日ひと息つく間もないくらいの忙しさで。息子が3人おりますが、祖母や隣近所のおばあちゃんたちが喜んで遊んでくれたの。三男坊が泣いてぐずれば、お客さんがカット途中でも『お乳をくれてこい(あげてきなさい)』と言ってくれてね。地域の方々の優しさのおかげで、こうして50年もお店を続けてこられたんです。」


石原さんのオープンマインドな性格も手伝って、理髪店には客以外の人も出入りし、賑やかな井戸端会議の場となっていった。そんな求心力を、放っておかなかったのが行政だ。30代で地域の女性消防団・防火クラブ(当時)の会長に任命されたことを機に、40代からは高山商工会議所女性会部長、高山市朝日町婦人会で会長を務め上げ、様々な要職に担ぎ出された。



「この町に生まれ、町の人たちに育ててもらった以上は、地域を盛り上げなければ。だから、頼まれごとはすべて、やってみよう!と思うんです。やってみてダメなら仕方がないこと。でも学歴もないような私を見い出してくれた人がいるわけですから、努力はしないと。保育園のお楽しみ会、バザー、ゴミ拾い…、どんな行事でも婦人会が欠かせない存在になるよう、女性目線でできることをコツコツ取り組みましたね。」


「女であっても思った意見はしゃべれる人になれ」ーーイベントごとで登壇するたび、石原さんは幼い頃に言われた祖父の言葉を思い出す。台本は用意せず催しの空気感を大切に、会場にいる人々の目を見て語りかけるのがポリシーだ。予定調和ではない言葉が聴衆の心に響く。

長男の石原まさひろさんは理容師を継いだが、現在、高山市議会議員として二期目を活躍中だ。母が一所懸命、「育ててくれた地域のために」と邁進してきた道を、気がつけば息子も歩んでいる。


社会人ソフトボールチーム「高山ウインズ」での活動も50年目を迎える石原さん。理髪店もソフトボールも、人に求められる限り、生涯現役で続けていく。



社名クオレ2号店
住所岐阜県高山市朝日町西洞17-1



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