HIDABITO 005 温泉民宿 お宿のざわ 野沢 陽子 氏

HIDABITO 005 温泉民宿 お宿のざわ 野沢 陽子 氏

奥飛騨生まれ奥飛騨育ち 飛騨高山について新たな挑戦の始まり

サービスとは、企画です

それぞれ泉質の異なる5つの温泉からなる奥飛騨温泉郷。その中でも最も南に位置する新平湯温泉エリアにはこの日、大粒のぼたん雪が降り続いていた。懐かしい縦型のポストや、沿道に並ぶお地蔵さんに雪が積もっている光景は、当地の厳しい寒さを物語りながらも、反面、どこかあたたかで懐かしい印象を受ける。


 



そんな白銀の世界から流れ込む単純泉の源泉は、リウマチや打撲などによく効き、多くのファンを数えている。その中でも人気の民宿が、ここ「温泉民宿 お宿のざわ」だ。


「民宿の魅力の1つにリーズナブルな価格、というものがありますが、私はお客さんと私たちスタッフの近い距離感だと思っています。常連さんたちはいらっしゃる時、『ただいま〜と声をかけてくださるんですよ」


そうはつらつと話してくれたのが、元気な笑顔が印象的なこの宿の女将・野沢陽子さん。生粋の奥飛騨生まれ奥飛騨育ち。子どもの時からこの温泉地で、様々な人と出会ってきた。


「取材などで『こちらの売りはなんですか?』なんて聞かれると、素直に『それは私自身ですね』なんて答えちゃうんです(笑)。でも冗談ではなくって。奥飛騨に来たら温泉があるのは当たり前。お料理でも飛騨牛や朴葉味噌はどこでも出します。じゃあ他にどこで喜んでもらえるかと考えてみると、やっぱり人なんじゃないかなって」


柔らかなトーンの裏に、重みが感じられるこの言葉。だが意外にも、この民宿はお嫁に来た旦那さん一家が43年に渡り経営してきた宿なのだ。サラリーマン務めの旦那さんに変わり手伝っているうちに、女将となって15年。キャリアは合計25年にもなる。


「祖母がもともと旅館をやっていたせいで、子どもの時からそこでお布団を上げるお手伝いはよくしていました。家業も床屋でしたので、普段から色んな人が出入りする環境だったんです。そのせいかな、人見知りもしませんでした」


25年の中で養われたのは、お客さんの要望をいち早くキャッチする感性だ。距離感を大切にすることは、決して馴れなれしく振る舞うことではない。女将自身が全てのお客さんを俯瞰的に見渡せるという、民宿ならではの規模感から生まれる利点を活かした気配りを心がける。中でも、最も大切にしているのがチェックアウト。


「終わりよければ全てよし、ではないけど、最後が1番印象に残りますよね。なので、朝はほとんどお見送りに専念しているんです。そこで初めてちゃんと話ができたお客さんが、実は私のブログのチェックをしてくださっていたことがわかったり。今では大切なリピーターさんの1人です」



しかしこれで終わらないのが、若き女将の魅力。実は様々な企画を立ち上げるアイデアウーマンでもあるのだ。ネットでこれまでに他で使われていないか、念入りにリサーチした結果をもとに昨年行なったのが「女将と女子会」というもの。


民宿の魅力をさらに濃縮したこの企画は、女性客が女将と一緒にテーブルを囲む盛大な女子会だ。かわいい小瓶で全種類そろえられた飛騨の地酒と料理に舌鼓を打ちながら、大いにガールズトークで盛り上がるそうだ。


地元の女性「ヒダジョ」(なんとこのキーワードも女将が考案)に限定し12名で開催した際に掴んだ手応えを元に、正式に開催した第2回は想像を越えた大盛況。一泊二食、飛騨牛ステーキ・飲み放題・「女将」付きで、お値段はお手頃な税込12,000円ということで、少し採算が心配になる。


「大丈夫ですよ。私はタダで飲めて、すっごく楽しかったですし。え、お酒?そうですね、全然嫌いじゃないですね(笑)」


繊細にして豪快な印象だが、自分が楽しむということを最近特に大切に考えているそう。



「大切にしている言葉があって。それは、サービスとは企画です、というものなんです」


様々な旅館、民宿が並ぶ中、どう宿としての魅力を感じてもらえるか。そんなアイデアは女将自身が足を使って得た、様々な人との関わりの中で生まれてきたそうだ。地元の調理師での会合に顔を出し、偶数月には名古屋まで異業種交流会に。呼ばれれば東京でもどこでもとにかく出かける。そこで得た情報から、また新しいアイデアが生まれてくる。


「でも最近、子どもが減ってきて少し町が寂しいんです。結婚する人も減ってきて、少し先の未来がちょっぴり心配なんですよ」


そこで大型イベントを考案。夏の風物詩である神明神社で開催される「いで湯まつり」 に合わせて、名古屋から呼んできたオールディーズバンドに、野外ステージを使ってライブをしてもらうフェスを企画したのだ。しかしよく聞いてみれば、開催日時は「いで湯まつり」が終了した翌日だ。一体なぜ…?


「だって、お祭りの日は私たちも働いてますから。新平湯温泉エリアの住民とお客さんが一体になって楽しんでもらいたいので、翌日にしたんです。地域でもう一回結束したいですからね」


地元出身の「ヒダジョ」女将が腕まくりをして挑む、一大企画。今年の奥飛騨の夏は、どうもひと味違いそうだ。



社名温泉民宿お宿のざわ
住所岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根212-112
電話0578-89-3363
公式サイトリンクhttp://www.hidanet.ne.jp/~nozawa/ 


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