HIDABITO 037 中谷製粉製麺所 四代目 中谷浩一氏

HIDABITO 037 中谷製粉製麺所 四代目 中谷浩一氏

実直に麺づくりと対峙し続け110余年。「おいしさ」に人生を懸ける職人魂

高山の人々の食文化に寄り添い、観光客の舌と胃袋を掴む陰の功労者


飛騨高山に息づく匠の技は、伝統工芸のそればかりではない。食文化おいても、丹念な職人仕事から生み出されてきた商品には普遍的な魅力がある。市街地を南北に流れる宮川沿いに工場を構える中谷製粉製麺所は、明治の頃から製粉・製麺を家業として高山の町とともに発展してきた。製造するのはそば、うどん、ラーメン、そうめんの生麺と乾麺など。ジャンルの幅広さは、地域のニーズに応え続けてきた証と言える。量産型の麺メーカーとは一線を画し、「中谷にしかできないこと」にこだわって110余年の歴史を紡いできた。


「生まれたときからここにおります。製粉機の音を聴きながら育ちました。小学生の頃から面白半分に親の仕事を手伝ったりしていましたね。乾麺を束ねる作業とかね。線香花火を束ねている薄紙があるでしょう? あれに似た、薄いけど丈夫な紙で250gずつ束ねる。今もそのやり方は変わっていません。」



記憶の断片を手繰り寄せるように、四代目・中谷浩一さんは静かな口調でそう言った。この道に入り、52年。高山で機械による二八蕎麦製造の技術を完成させた数少ない自家製粉・自家製麺の製造者であり、得意先の飲食店が中谷さんに寄せる信頼は揺るぎない。食品製造業はあくまでも裏方だ。古い町並を訪れた観光客は、中谷さんの麺だとは知らないままに空腹を満たす。


「高校では電気系を専門に学んで、卒業後は高山を出て電気屋さんに1、2年おりました。商売というものは継いで当然と思っておりましたので、姉の結婚を機に地元に戻って家業に入りました。昔はどんな機械も中古が主流。動かんくなれば商売ができませんから、自分たちで直すしかない。私は小学生の頃から自分でソリを作ってみたり、木工が遊びでした。機械いじりもその延長で、どうすれば動くか、自分なりに考えてやってきたということです。」



宮川に面したガラス窓から西日が差し込む工場では、年季の入った製粉機や製麺機が一仕事を終えて、息を潜めるように佇んでいる。手先が器用な中谷さんが自らメンテナンスを加え、大切に使い続けてきた。


「戦時中は、配給制度で割り当てられたご家庭用の小麦粉を引く仕事もしていたと、先代から聞いています。食糧不足の時代で、配給小麦は粒が粗かったりで決して美味しいものとは言えなかった。それで細かく引いて食べられる状態にするわけですが、製粉の客がうちの前から中橋辺りまで行列をつくったそうです。中華麺も作るようになったのは、私の知る限りでは戦後ですね。まだ高山ラーメンという名称はなく、支那そばと呼ばれていた。町の娯楽と言えば映画くらいで、映画館帰りに屋台で食べるのが流行ったことで、中華麺を扱う製麺所も増えていきました。」



市井の人のニーズを捉え、暮らしの身近なところで食の一端を担ってきた中谷製粉製麺所。しかし時代は移ろい、麺の製造分野でも利便性の追求に拍車がかかっていく。販売は小売店からスーパーへ。冷凍技術が発達し、高山にも量産された安価な麺が県外から入ってくるようになった。それでも中谷さんが動じることはない。


「今は製麺機もグレードアップして、手打ち風の麺を簡単に作ることもできる。そういうものを使えばいいじゃないかと普通は思うかもしれませんが、他所と同じことをやっていては。」もとよりの職人気質にあくなき探求心が手伝って、中谷さんはトライアンドエラーを繰り返しながら石臼製粉を復活させた。



「うちの製品は飲食店の一部。提供するものは麺であり、料理ではないんですよね。一皿の中で出汁や具材がバランス良くまとまって、初めて『おいしい』と言ってもらえます。比率で言えば1/3や1/4でしかない麺を食べて、どれだけおいしいと感じてもらえるか。基本として、素材そのものがおいしくなければ、おいしいものはできません。そのおいしさを引き出す手助けを機械がやってくれると思っています。」



15年前、一人息子の昭裕さんが高山に戻り五代目を継いだ。調理師学校で学び、板前見習いや蕎麦屋で修業を積んだ経験を活かし、飲食店のリクエストに応じた麺を粉から開発することで新たな販路を広げている。四代目の独創性あふれる職人技と、五代目の料理人目線のモノづくりが融合し、味で高みを目指す飲食店とおいしい麺に貪欲な消費者のニーズに見事に合致した。



時代とともに提供する麺のスタイルが変わっても、一貫して変わらないのは「おいしいものを作ろう」という思い。

「三代目が『俺で終わりやぞ』と言っていた家業がここまで続いた。この後は息子が好きなようにしてくれればと思います。」

そう話す中谷さんの眼鏡越しの鋭い眼差しに、ひと筋の希望の光を見た気がした。


社名中谷製粉製麺所
住所岐阜県高山市神明町4丁目2
電話番号0577-32-1296
営業時間8:30~15:30
定休日火曜日
公式サイトhttps://sobaudon.jimdofree.com/

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